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「進歩」の虚妄を痛撃する、英国の「異端派」としての、ジョン・グレイ。

公開日時:2008年06月22日 21時28分
更新日時:2008年06月23日 02時18分

平成十八年(二〇〇六年)二月二十七日(月)
(第一千六百回)

◯ジョン・グレイ(英国、オックスフォード大学政治哲学教授。現在、
 ロンドン経済大学 LSE ヨーロッパ思想史教授)は、

◯「リベラル・ヒューマニズム」を俎上に乗せる。

◯この用語は、日本語では、そのまま、翻訳されることはないであろう。

◯「リベラリズム」は、普通「自由主義」、「自由思想」と訳される。

◯「あらゆる種類のモダンの欺瞞的言説の中で、我々は今、世俗的=脱宗教
 的時代に生きて居ると言う観念以上に、現実から遠いものは存在しない。
 全世界の大部分に於て、宗教は、不死身の活力を以て繁栄して居る。

 今日のブリテンに於ける如く、宗教を信じて居るものが少数派であるような
 場所では、伝統的宗教は、リベラル・ヒューマニズムによって取って代えら
 れて居る。それは、モノを考える人々にとっての、無意識の教條(クレド)
 と成って居る。......」

 (john gray  heresies: against progress and other illusions )
  ジョン・グレイ著「異端派-進歩又はその他の幻想に反対する」、
  四十一頁、二〇〇四年

◯ジョン・グレイは、
 この「リベラル・ヒューマニズム」は、それ自体、ひとつの宗教であり、
 キリスト教の最悪の、もっとも醜悪なかたちの複製である、と言う。

◯この見方は正しい。

◯全くその通り。

◯日本人、とくにその支配権力エリート階級は、明治期から現在まで、

◯熱烈な英国崇拝病に取り憑かれて居る。

◯にも拘わらず、幕末明治から今日まで、

◯日本人は、英国の正体について、徹底的に無知であり続けて居る。

◯日本人のこの極端な無知状態は、
 英国のみならず、米国についても全く同様である。

◯「リベラル・ヒューマニズム」のイデオロギーは、どのようにして、
 今日の如く英国で支配的と成るに至ったか。

◯これは、現代英国の実体を理解する上の必須の前提であろう。

◯ジョン・グレイは、前出の論文(sex, atheism and piano legs)と
 著作全体を通じて、その問題を論究した。

◯彼はそれを、ジョン・スチュアート・ミル(john stuart mill)に対する、
 オーギュスト・コントの実証主義の深い影響の中に位置付けた。
 
◯オーギュスト・コントについて特別に研究した日本の学者は、
 殆んど存在しない。

◯唯一つの例としては、
 一九六〇年安保闘争のあと、左翼陣営から脱却した晩年の「清水幾太郎」
 を挙げることが出来るであろう。

◯しかし、
 この清水幾太郎のコント研究は、単発で終り、やがてその波紋は消えた。

◯筆者の見るところでは、
 敗戦後の日本人の暗黙の支配的イデオロギーも、ジョン・グレイの言う、
 「リベラル・ヒューマニズム」であり、そしてそのようなものとして、
 日本人は無自覚のうちに、オーギュスト・コントの実証主義、ないし、
 コントの造った、「人類を至上至高の存在として自己崇拝する人類教=
 人類宗教」に支配されて居るのである。

 (了)

 




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