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ボリビア情勢入門
― 但し、インディオは、スペイン占領者の一味ボリバールにちなむ、「ボリビア」の国名を認めない。
インディオにとって正式の国名は「タワンティンスーユ」である。

公開日時:2008年08月04日 00時08分
更新日時:2009年02月10日 20時38分

平成二十年(二〇〇八年)八月三日(日)
(第二千五百三回)

◯二〇〇五年十二月、ボリビアの総選挙で、社会主義運動党(MAS)が議会の
多数を得て、大統領に、同党のインディオ出身、モラレスが選出された。

◯二〇〇六年一月、ボリビア史上初めて、インディオ出身者を大統領とする政府が、
合法的に、選挙を通じて成立した。

◯つまり、ボリビアは二年半以上に亘って、インディオをリーダーとする政権の
統治下にあるわけである。

◯このモラレス政権の与党、社会主義運動党(MAS)は、インディオの農民組合
を母体とする政党である。

◯筆者は、一九八二年以来、ボリビアインディオのもっとも急進的な独立革命思想家、
ラミロ・レイナガ・ワンカールと親交を結んで居る。

◯ラミロ・レイナガは、ボリビアのインディオが、スペイン植民地主義占領者の
国家権力によって強制された、スペイン風の名前である。

◯ラミロは、この名前ではなくて、インディオの言葉で、戦いの太鼓を意味する
「ワンカール」の方を使用することを好む。

◯筆者は、一九八〇年代の半ば、長野県白馬村のホテルで、エコロジストと世界原住民
の国際会議を主催した。

◯この国際会議の主役は、ラミロであった。

◯この会議が採択した声明文の基調はラミロによって起草されて居る。

◯一九八二年、我々が初めてラミロを日本に招待したとき、彼は、
「インカのスペインに対する五百年の戦争」(スペイン語版)の日本語版の出版を
筆者に依頼した。

◯筆者は友人を通じてアジア経済研究所の中南米問題研究家の吉田秀穂氏に邦訳を
お願いした。

◯吉田秀穂氏は全くのボランティアで、つまり全くの無償、十年以上かかってそれを
ほぼ全訳した。

◯それは、一九九三年に新泉社から、一千部限定(定価五千円)で出版されたが、版元は、
これは出版奨励金をもらいたいくらいのもので、翻訳料はもちろん、著者ラミロへの
印税も、一銭も支払わない、と言う。

◯筆者は、
筆者のポケットマネーから、印税相当分千五百ドルをラミロに送金したのである。

◯ラミロの評価によれば、
モラレスと、その与党の社会主義運動党(MAS)は、二つの顔を持って居る。
インディオ原住民の顔と、ヨーロッパ階級闘争イデオロギーの顔と。

◯従って、ラミロは、当然の如く、インディオ独立革命の思想の立場からモラレスと
その政権に対して、きびしい批判的見方をして来た。

◯最近のラミロからの連絡によれば、ボリビアの状況は次の如くである。

(1)モラレス政権のインディオ的性格の政策が、少しづつ現実化するにつれて、

(2)ボリビアのスペイン植民地主義占領者の権力は、全国的に、全戦に亘って反撃に
出て居る。

(3)それにともなって、ボリビア人口の多数を占めるインディオもまた、
改良主義的モラレス政権の水準を越えてすすむ傾向が生まれて来る。

(4)ラミロは、今、二〇〇五年秋に発生した刑事事件によって、裁判にかけられて居る。
この事件の概略は、ずっと以前から、ラミロの著書「インカのスペインに対する
五百年の戦争」(スペイン語)の海賊版が広く出回って居り、首都ラパスの街頭
へも公然とこのラミロの本の海賊版を売る泥棒がのさばって居た。

二〇〇五年秋、ラミロがその一団を見付けて抗議すると、彼らは集団でラミロを
襲った。
ラミロは生命の危険を感じて、正当防衛のために発砲した。
この事件について、スペイン植民地占領者権力は、ラミロを逮捕して、これを奇荷
として、ラミロを永久に牢獄の中に閉じ込めようとして居る、と言うのである。

(5)しかし、ごく最近ボリビアのインディオ社会の中に、ラミロを再評価する動きが
出て来て居ると、しかし、この問題は後にまた述べることにする。

◯今、ボリビアの治安は険悪化して居ると言う。

◯これは、一方では、インディオが改良主義モラレス政権の水準を乗り越え、
他方では、スペイン占領者権力はインディオの運動を粉砕すべく進出する、
この公然たる衝突の前兆である。

◯ラミロは内戦が地平線上に見えて居る、という。

◯ラミロが「インカのスペインに対する五百年の戦争」で、記述した如く、スペイン侵略者
に対し、インディオは五百年の間、大中小、無数の民族自衛の戦争を遂行した。

◯改めて、筆者は、日本民族有志が、ラミロのこの古典的名著を発見されるよう要請する。

(了)

《注》

◎ラミロ・レイナガ(ワンカール)著、吉田秀穂訳

「インカのスペインに対する五百年の戦争」日本語訳は新泉社、定価五千円(絶版)
(インカの抵抗五百年史)これは、ラミロの了解の元にコピー本を日本義塾出版部で
販布中 一冊四千円 プラス送料

◎なお、この本のスペイン語版原著は、現在増補版が出て居り、出来るだけ早い機会に
増補版による日本語を刊行したいと希望して居るが、今のところ、スペイン語翻訳者
が見付からず実現のメドはたって居ない。

 




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